仏像名

 ふげんぼさつきぞうぞう

大倉集古館

制作年代

国宝

平安時代

普賢菩薩騎象像

様 式

 

俗称又

は愛称

 

製作材質

木造、彩色、

切金文様

樹 種

ヒノキ

像 高

55cm

製作者

 

安置場所

 

 

開扉期間

 

解 説

 平安朝貴族の耽美の極にある仏像といえよう。「泥くさいところがひとつもない」とは倉田文作・元奈良国立博物館長(故人)の評だ。典雅で繊細巧緻な平安文学の美感にも重なる。こんな超一級の木造仏が、東京都心でほぼ常時鑑賞できる。大倉集古館の国宝普賢菩薩騎象像である。

 館内の奥まったガラスケースに展観してある。小ぶりの像とあってあまり目立たないが、近づくにつれて白象の背の蓮華台に結跏趺坐する端麗な姿が目に焼き付いてくる。

 制作は平安後期の12世紀、文化史でいう藤原時代。仏師は不明だが、京の円派という見立ても。極端な誇張を排して高い品位を追求した造りで、強烈な個性と量感を誇る平安前期の像とは一線を画す都会的センスの美仏である。

 もう少し細かく見よう。まず頭部。9束の髪が2段になって頭頂から左右と後ろへ垂れ、細い髪筋が丹念に刻まれている。宝冠を載せていた天冠台の細かい金色連珠も狂いなく並ぶ。童顔風のふっくらした顔には清純な慈しみが漂い、両肩に掛かる天衣は両腕へ複雑に絡んでひざへ。象は胴長で安定感たっぷりだ。

 この普賢像の最大の特色は彩色だ。経年の退色はあるが、頭髪の群青、眉や瞳の黒、唇の朱、天衣の緑青などはよく残っている。とりわけ目を引くのは衣の各所で輝く截金装飾。その繊細で華麗な金色文様は感嘆モノである。

 菩薩像はヒノキ。干割れ防止のために一材を割って接合する割り矧ぎ技法を採る。象はスギの寄せ木造り。部分的に多少の欠損や彩色の剥落はあるが、保存状態は抜群だ。

 普賢菩薩は慈悲の菩薩といわれ、知恵の文殊菩薩とともに釈迦三尊の脇侍を成す。獅子に乗る文殊に対して普賢は騎象が通例だ。独尊としてもまつられるが、この像が三尊か独尊かは明らかでない。

 大倉集古館の普賢像には1900年パリ万博に財閥大倉家の所蔵品として出展された記録がある。だが、それ以前の来歴は謎だ。技法や意匠から、京の皇族や貴族が造立し、都かその周辺の名刹に安置した可能性が高いという推測はあるのだが・・・。

「探訪 古き仏たち」より 朝日新聞 2014.01.04

 

私 の 想 い

 両手を胸の中心で合掌する。手首に腕釧を着ける。吉祥座に座る。天衣が右腕の中間から吉祥座に組上げた左足の裏に翻る。左腕の中間から垂れる天衣は、右太腿に翻る。組上げた吉祥座の前に二重になって拡がる。七段蓮弁の蓮華座に座る。

 像の下で普賢菩薩を支える象の姿に注目する。平安時代では、象は日本にはいないはずである。想像で彫ったのではないかと思われる。

 足は五爪である。耳も象らしくない。ラッパ状の耳であり、中間で折れて下を向く。象の象徴である鼻は、長く象らしい。先端をくるくると丸めている。特に賞賛したいのは、彩色が剥がれて現れた、木目である。象のオデコの出っ張りや目玉の高いところに木目の年輪が地図の等高線のように現れていた。

 ここで折角なので、普賢菩薩騎象像について、

東京・大倉集古館の国宝普賢菩薩騎象像と長野・牛伏寺の重文普賢菩薩騎象像と本像の三躯を比較して観たい。

 私の比較したい興味な点は、象の姿である。平安時代には日本に象は存在しない動物であるから図像画の絵から姿を見て、想像して彫ったとしか思えないのである。仏師が観た図像画によって、偏りが存在するかも知れない。部位の比較を試みました。

 

騎象の鼻は

大倉集古館像

1)まとまっていて太く丸い鼻。丸く鼻先が丸まる。

牛伏寺像

1)頭から扁平な鼻が前に出て来て、先も扁平のままで丸まる。

東大寺四月堂像

1)太く丸みがあり、本物に近いが鼻先の丸まり方が不自然。

 

耳は

大倉集古館像

1)筒状の耳で不自然。更に耳が筒状に垂れる。

牛伏寺像

1)眼の斜め上に扁平に小さく着いている。

東大寺四月堂像

1)筒状だが、大倉集古館像よりも大きく、本物により近い。本物は団扇状だ。

 

足は

大倉集古館像

1)四爪の足。

牛伏寺像

1)四爪の足。

東大寺四月堂像

1)四爪の足。

 

牙は

大倉集古館像

1)なし。インド象で元々無いのかも。

牛伏寺像

1)口の脇から前に伸びて在る。アフリカ象の様に長くはない。

東大寺四月堂像

1)口の脇から前に伸びて在る。アフリカ象の様に長くはない。

 

本尊の姿は

大倉集古館像

1)両手を胸の前で合掌している。

牛伏寺像

1)両手を胸の前で合掌している。

東大寺四月堂像

1)両手を前に出して、段違いに蓮華の茎を持つ。

象の出来栄えからは、東大寺四月堂像に軍配が上がるが、全体では国宝の大倉集古館像に敬意を払い一番に押します。

 

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