仏像名

11めんかんのりゅうぞう

観音寺

制作年代

国宝

奈良時代

十一面観音立像

様 式

 

俗称又

は愛称

 

製作材質

木心乾漆造

漆箔

樹 種

 

像 高

172cm

製作者

 

安置場所

本堂

 

開扉期間

 

解 説

それからちょうど1ヶ月を置いた二月の中頃、こんどは田辺町大字普賢寺の観音寺に、これまた高名な十一面観音を訪ねた。雨の日であった。小さい丘の裾にある小さいお堂で、まるで黒檀ででも造ったのではないかと思うくらい黒く光っている十一面観音に初めてお目にかかった。

 室町時代のものだという厨子に収まっており、十一の仏面と水瓶(これは新しいもの)を持っている手に、やや金箔が残っているぐらいで、あとはすっかり剥げ落ちて黒漆の地が出てしまっている。顔も胸部も黒々と光っている。

 同じ女身の十一面観音ではあるが、これから受ける感じは室生寺や法華寺の十一面とは少し異なっている。豊満な体躯にも、顔容にもどこかに未成熟な女性を持っている。あるいは、童子の持っている稚さと硬さが感じられ、それがまた別の美しさを出している。口をきりっと結び、少々顎が張っており、顎から胸部へかけても豊かな肉付けであるが、成熟した女性の姿ではなく、少年か少女の持つ硬さのようなものがぴんと張った感じである。

 この観音寺へ来て、初めて十一面観音というものが本来収まっているべきところに収まっているかのような思いを持った。

 造られたのは古いが、その割りに損傷していないのは長く秘仏として、余り有名でない小さいお堂に祀られ、そして信心深い土地の人たちの手によって、守られていたからであろう。

「十一面観音」 著者 井上 靖 1993年より

 

私 の 想

右手は下に降ろして、肘をくの字に前に折って、手の平は半分正面を向いている。薬指を少し中に折っている。

左手は肘を直角に折って、前に出して水瓶を持つ。水瓶には、蓮華の咲いた花、蕾、丸まった蓮華の葉が三本差してある。

親指、中指、薬指の三本で水瓶の口を握る。人差指と小指を大きく撥ね上げている。耳の大きな方です。天衣は右肩から右腕に添って、太腿を通って、左腕に掛けて左足元に落ちる。

もう一方は、右手首から下に落ち右足元に絡まる。手首から膝を通って左肩に掛かる。左肩から垂れた天衣を左脇腹で捻って、垂らす。

直立した身体の動きは感じられないが、指の表情にいつも感心させられる。

「今日の十一面さんは、一層きれい」

と言うと。

「ありがとうございます。うれしいわ。そう言って頂くと、今日はきっと良い事がありますよ」

と言ってくれた。

「優しいご住職に見守られて幸せですね」

と言うと。

「何時も優しくして、頂いております。ここに来る方皆さん好い方ばかりです」

だと。若いのに応対も立派である。さぞ、歴代のご住職や信者の方々の厚い、熱い信仰に守られて、来たのでしょう。

 平成21年10月京都・滋賀「仏像観て歩き」で訪問した時には、次のように書いている。

国宝十一面観音像の中で、一番大好きな十一面観音像である。それに加えて秘仏でなく、いつでも拝観出来る十一面観音像である。そんなところから、四季を通じて拝観させて頂きました。

菜の花の時期、参道の桜の時期、蝉時雨の時期、秋の参道脇の畦に咲いた彼岸花の時期等々です。
 この十一面観音さまには、申し訳ないのですが、私の中では余り、女性っぽさを感じない。むしろ、少年のようにも感じられるのである。あえて言えば、生きる勇気を与えてくれる十一面観音さまである。少年から励まされる気持ちのする十一面観音である。落ち込んでいる時や、上手く行かない時に励ましてくれました。
 今日も元気な姿で新しく金箔で彩られたお厨子の中に居られました。ありがとう御座いました。

平成22年11月の遷都1300年「仏像観て歩き」で訪問した時には、次のように書いている。

今回一緒に訪れた三人の仲間も、昨年老夫妻の案内で拝観したのである。遅い時間の拝観であったが、最良の拝観場所を奥様からお聞きしましたと、若住職に言ったところ、にっこりと笑っていました。

 この若住職に初めてご案内されたのは平成17年4月である。あれから5年も経過しているので、すっかりと板に付いた様子である。

 平成26年7月の「仏像観て歩き」法隆寺夏季大学の時に、前日に訪問しました。

拝観を終えて、お別れの挨拶に再度庫裏に顔を出すと、老夫人が現れて来ました。昨日、買ったのですが、夏ですのでお饅頭は早めに召し上がって下さいと伝えた。

 また、以前は乾麺をお持ちした話をしましたら、乾麺で思い出してくれたようで、

「乾麺ですか。思い出しましたよ。私は直ぐに茹でて食べて頂くのですが、今の人は中々ですね。」

と、ぼやく。段々と、若い息子夫婦に観音様の守りから家事のことまで渡して行く寂しさがそんな言葉になって出たのだろう。

 このお寺では、日常生活の中での国宝十一面観音様との関係を観るようである。大切な宝物であるのだが、生きた尊敬する人をお守りするような気持ちが現れていて感心する。

 

 

十一面観音立像画像一覧その1
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十一面観音の考察