仏像名

11めんかんのんりゅうぞう

聖林寺
制作年代

国宝
奈良時代

十一面観音立像

様 式

俗称又
は愛称

製作材質

木心乾漆造
漆箔

樹 種

像 高

209cm

製作者

安置場所

収蔵庫

開扉期間

解 説

 十一面観音の像は、奈良時代から盛んに造られた観音菩薩の一つであるが、その中でも最も有名な像は奈良県聖林寺のそれである。本像は、もと大神神社の神宮寺の像であったが、明治初年の神仏分離の際、聖林寺に移されたと伝えられる。文献的伝来を全く欠いているが、造法や作風から奈良時代末期と推定されている。
 この十一面観音の造り方は、木心乾漆といい、木材で大体の形を取り、その上に麻布を漆で塗り固め、細部は木屑を盛上げて仕上げをしてゆく造法である。こうした造り方は、奈良時代末期から平安時代前期にかけて流行した。本像は、像全面に金箔を押し、台座、本体共にかなり完全に残っている。天衣の一部と持物、及び頭上の仏面、正面の化仏を失っているほか、光背も破損し断片になって残っている。
「日本の彫刻 上古〜鎌倉」 美術出版社 1966年より

 大和の三輪神社に伝わった古像、明治の神仏分離の際、聖林寺の所蔵となった。天平後半の代表的遺品である。
「日本の彫刻」 久野健編 吉川弘文館 1968年より

 法華寺に行った翌日、聖林寺を訪ねた。和辻さんが「古寺巡礼」で、その人間のものならぬ豊麗さを高い調子で讃えている、この十一面観音には初対面であった。長い間見なければならぬものがあると思いながら、それを果たせないでいた。多少見てしまうのが惜しいような思いもあった。
 昭和三十五年に造られたという大悲殿と、名付けられている鉄筋コンクリートの収蔵庫で、この公明な十一面観音を拝む。蓮座のところどころ、水瓶の下部、胸の上部などに金箔が光っているが、頭に戴いている仏面は黒くなっている。
 写真では度々この十一面にはお目にかかっているが、さすが実際にその前に立ってみると、堂々たる貫禄である。舞でも舞う時のあのすっくと、立った感じで立ち、そしていささかも横などは意に介さず、顔は前だけを向いている。無表情というのではないが、人間的な表情といったものとは無縁で、表情を持っていると言えば、右の手指ぐらいのものであろうか。こうなると同じ十一面観音と言っても、室生寺や法華寺の観音さまとはまるで違ってくる。
 女性的なもの、官能的なものはどこにも感じられない。同じ観音菩薩でも、修行を積んで、今や如来に近づきつつあるであろう。もう自分の悩みや苦しみは、すっかり克服してしまい、ひたすら衆生を済度することだけを己れに課しているかのようである。凛然たるものが辺りを払っている感じはそういうところから出て来るかも知れない。
「十一面観音」 著者 井上 靖 1993年より

私 の 想 い

 平成17年4月に「仏像観て歩き」2で訪問した時には、次のように書いている。
3度目の今回は、完全に一人での拝観である。こんな美人と二人きりのデイトが出来るなんて、幸せ一杯である。

 正直言って、この十一面観音像は、端正過ぎて、近寄り難い感じである。像のモデルの年齢は35,6歳であろうか。私の年齢で、なお、お姉様と思うのも変な感じだが、どうしてもそういう風に、思えてしまう。不思議である。好みの問題もあるが、国宝十一面観音像の中で、私はこの十一面観音像が一番ではない。失礼しました。
 足の長い超特別な別嬪さんである。普通、仏像は首がないか、短いのが普通である。この方は極々、普通に首が有る。本当に自然である。下から見上げると頬の肉の丸みが何とも美しい。また、右手の指先の綺麗な曲線に眼が吸い込まれる。
 二人だけの静かな時間を過ごしていたら、仏前に供えた花瓶の椿のつぼみが、ぽとりと落ちた音がして転がった。椿が焼餅を焼いて落としたのである。
 2回目の訪問では次のように記述している。最後に聖林寺に行く。参拝者が誰も居らずに、一人で美女とデイト出来た。余りの美女で、息が詰りそうで、この方とはどうも会話が続かない。
 そこで美女でこの方に良く似た美女を考える。頬の下がふくれているので、女優若尾文子か女優佐久間良子である。本当は女優若尾文子かも知れないが、女優若尾文子の映画は、見ているが具体的に題名も場面も浮かんで来ない。
 一方の女優佐久間良子は大好きな女優さんですから、次から次に場面が思い出せる。山本薩夫監督の「日本泥棒物語」「人間の条件」今井正監督の「越後つついし親不知」田坂具隆監督の「湖の琴」などなどたくさんある。中でも水上勉の小説を題材にした、薄幸の女性を演じる事が多いし、好く似合う。
 ひとしきり、女優佐久間良子の映画を基に想像をめぐらしていた。外が雨のためもあって、鉄扉もガラスドアも締め切って、雨音も聞こえない静かな空間で、「ポット」と何か音がした。誰か来たのか、と身構える。
 自分で持っていた鉛筆が、指からこぼれ落ちたのである。いつの間にか気持ち好くうたた寝をしていたのである。十一面さんごめんなさい。
 帰りに受付を通ると、若い娘さんもじっとして、動かない。春眠暁を覚えずの季節である。挨拶せずに黙って帰る。
 平成22年11月に遷都1300年「仏像観て歩き」として訪問した時には、次のように書いている。
 今回の「仏像観て歩き」では、すでに京都・観音寺像、奈良・法華寺像と2つを拝観して来ている。7つある国宝の内のここで3つ目である。
 左手はキツネの指型で水瓶の注ぎ口を持つ。右手の指先もキツネの指型にまでは至っていないが、それに限りなく近い。指先からは芳香が放たれて、指先に眼を吸い寄せられる。しなやかな指先とふっくらした手の甲に釘付けになる。背筋をすっくと伸ばして立つ。
 同行の二人にお願いして、しばらくの間、十一面さんと二人だけにして貰った。しかし、どうにもこの美人の方とは、住む世界が違い過ぎて、息が詰まりそうである。
 この歳になっても、更に自分よりも年上の女性に思えるのも不思議なことだが、私の中ではそうなのである。そんなことも、女優若尾文子や女優佐久間良子の映画を思い出す基になっているのだろう。

十一面観音立像画像一覧その1
十一面観音立像画像一覧その2
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十一面観音の考察