仏像名

 あみだにょらいざぞう

浄楽寺
制作年代

重文
鎌倉時代

阿弥陀如来坐像

様 式

文治五年(1189)

俗称又
は愛称

製作材質

木造、彩色
玉眼

樹 種

像 高

141cm

製作者

運慶作

安置場所

収蔵庫

開扉期間

3/3、10/10、他の日の拝観は事前申し込み、雨天中止。

解 説

 横須賀・浄楽寺の収蔵庫に安置される阿弥陀三尊像。その威厳に満ちた表情、充実した体躯、流動する衣文線は願成就院と共通する。
 堂内で圧倒的存在感を放つ三尊は、鎌倉彫刻に革新をもたらした作者・運慶の卓越した技量を、余すところなく今に伝えている。
「日本の仏像 願成就院と浄楽寺 運慶仏めぐり」より 講談社  2008年

 浄楽寺の阿弥陀三尊像も、願成就院の阿弥陀如来像等と同様、東国の武将和田義盛の発願により、文治五年(1189)に運慶が小仏師10人を従えて制作した尊像である。
 この阿弥陀三尊像の胎内には、多数の修理銘札や小仏像が納入されているが、さらに、胎内には、一切如来心秘密全身舎利宝篋印陀羅尼等が墨書されている。しかも、この文字は同寺毘沙門天像の胎内から出た文治五年運慶作の銘札と同筆で、この阿弥陀三尊像の様式とともに、これらが、また運慶の真作であることが判明した。
 この阿弥陀如来像はヒノキ材の寄木造彫眼の像で、金箔や彩色等は江戸時代のものである。中尊の阿弥陀如来像は、丸い顔付きと胸の厚い体躯をもった、きわめて量感にとんだ彫刻である。螺髪は粒が小さいが丈が高く、眉は弧線が長く、唇の曲線はアクセントが強い。耳は、耳穴の彫りが普通のものより著しく深い。
 肥満した体躯を包む納衣は皺数が多く、しかも、その曲線が複雑に乱れているところに特徴がある。刀法も鋭く、彫りも深い。
「特別展 鎌倉時代の彫刻」 東京国立博物館 1975年

 浄楽寺の収蔵庫には、中央に阿弥陀如来坐像と脇侍の観音、勢至両菩薩、両脇に不動明王と毘沙門天の5体が並んでいる。尊像の構成が前回紹介した伊豆・願成就院の5体と似ている。量感豊かで写実的な作風も共通する。だが願成就院は運慶作を示す史料がありながら、浄楽寺像が運慶作と判明するまで学界は長く、運慶作と認めなかった。なぜ判断を誤ったのだろう。
 願成就院の不動明王と毘沙門天には「北条時政を施主に運慶が1186年に造った」旨が書かれた江戸時代発見の銘札が伝わっている。だが今ある両像は、銘札があった像とは別の像とみられてきた。
 浄楽寺の5体は1959年から仏像彫刻史の故久野健氏らが調査し、毘沙門天と不動明王の像内から「和田義盛と妻を施主に運慶が小仏師10人と1189年に造った」旨が記された銘札が見つかった。阿弥陀如来と両脇侍の像内にも同じ書風の墨書があった。
 北条時政も和田義盛も鎌倉幕府の御家人。両寺の緒像は作風ばかりか銘札も造像の背景も共通し、すべて運慶であることが確実となった。
 時政は伊豆、義盛は三浦半島南部を拠点にした武士団の長。頼朝の死後、義盛は北条氏と争い滅びるが、時政も義盛も頼朝の幕府創設では武将として活躍した。おそらく2人は都の寺の仏像はなじめず、運慶に造像を頼んだのではないだろうか。
 両寺の緒像は力強さや重量感が平安末期の京都の美麗な仏像とまるで違う。運慶は貴族の美意識に縛られていなかった。すでに武士の時代が始まっていた。新時代の精神を天才・運慶はいち早く体現していたのだろう。「都らしからぬ作風」という理由で運慶作であることを認めなかった学界の方が平安貴族の美意識に縛られていたと私は思う。
 もっとも、浄楽寺と願成就院の緒像は運慶作でも微妙に違う。浄楽寺の阿弥陀如来はおとなしい。これを運慶的な力強さの後退とみる意見がある。私は一点を凝視する浄楽寺像の目は運慶晩年の傑作、興福寺北円堂の弥勒仏の厳しいまなざしに通じ、信仰が深まった反映と考えたい。
「探訪 古き仏たち」より 朝日新聞 2014.02.15.

私 の 想 い

 右手は脇を締めて肘をL字に折り、手首を返して低い位置で手の平を前かがみにして、上品に親指と人差指を着ける。この手の平でパルスを発信するというよりも、むしろ受信しているのかも知れない。
 左手は脇を締めて肘を折り、手首を組上げた左脹脛の上に乗せ、手の平を上に前目に向け、上品の親指と人差指を着けた印相である。
 ゆったりとした雰囲気の頼り甲斐のある阿弥陀様である。右手で魅せるパルスの受け止め形でもわかるように、あたかも、頼みごとを全部判っている、全部お見通しである。
 平成20年の訪問では、次のように書いている。
施無畏印をしている右手は、外側に少し開いているのではないかと思って観ていた。この形は、秋篠寺の薬師如来さんを拝観していた時に、
「この薬師様の手は、少し、これやわね」
と、拝観者が言ったのを思い出した。それは施無畏印の形で、手首を横に振った時の外側の形である。ところが正面に廻って、観てみるとそんなことはない。普通の施無畏印をしている。拝観する位置で違って見えるのである。
 上品下生の印相で右足前の組上げをした吉祥座である。大きな蓮弁を四段に重ねた蓮華座に座る。
 端正なお顔の青年阿弥陀様である。

阿弥陀如来坐像画像一覧その1
阿弥陀如来坐像画像一覧その2
阿弥陀如来坐像画像一覧その3
阿弥陀如来坐像
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