仏像名

ふりがな むじゃくぼさつりゅうぞう

興福寺
制作年代

国宝
鎌倉時代

無著菩薩立像

様 式

承元二年(1208)

俗称又は愛称

製作材質

木造、玉眼
彩色

樹 種

像 高

193cm

製作者

運慶作

安置場所

 北円堂

開扉期間

解 説

 年老いてはいるが、がっしりとした体格である。目は小さいながら清らかに澄み、口を固く結ぶ。
 この像の作者運慶は年代的にも、地域的にもはるかに離れた像主の風貌を、ひしひしと迫る現実感を持って表現した。
この傾向は、鎌倉彫刻の巨匠運慶において完成したものとなる。
 その最も良い作例が奈良興福寺の無著・世親両像で、運慶の円熟した時期、承元二年
(1208)、に制作されたものである。
 像主の二人はガンダーラ国に生まれた兄弟で、法相宗の祖師として知られる。兄無著と弟世親の年齢的な差異ばかりでなく、温厚な無著と剛直な世親という性格の違いまで巧みに捉えている。
 もっとも、その様な二人の性格が事実であったかどうかは明らかでなく、また風貌も服装も中国風に表わされているのだが、それにしても両人の姿は、いかにもその人らしく私達に受け入れられる。
 というのは、外貌が似ているかどうかは、一応別として、その人としての本質的な固有の精神を的確に捉え、祖師を生きた人間として現実的に表現しているからである。
 また着衣の被だの刻出法も、六祖像のような外見的な写実表現とは違って、要点を大きく掴む事によって、対象の真実を巧みに捉えるという方法である。
 ここにも、対象の中に本質的・永続的なものを探ろうとする運慶の行き方が見られるのである。
「日本の美術 肖像彫刻」 至文堂 1967年より

 この両像は共に桂材を用い、一木彫(無著)、または、寄木造(世親)の技法で造られる。表面は、矧目を布貼りした上、錆漆下地、黒漆塗りを施し、彩色仕上げとする。
 材料の桂材は、中尊弥勒如来坐像のほか、旧西金堂釈迦如来頭部や現南円堂四天王立像にも用いられ、鎌倉復興期の造像では、檜に次いでよく用いられた。
 無著・世親は古代のインド人だが、作者の運慶はその容貌を日本人の姿で表した。老年の無著像は、顔を少しうつむけ、口元を引締める。
 静かに前方を見詰める眼差しには、諦念を含んだ穏やかさが感じられ、その表現は世の無常をじっと見詰めるかのようである。

 対する壮年の世親像は、顔を上げて前方を凝視する。眉根を寄せ、上瞼に角を立てた眼差しは鋭く、その表情には抑制された怒りや悲しみの感情が讃えられている。
 両像は、それぞれ頭部を内側(中尊像の側)に向け、内側の足を踏出して立つ。いずれも吊り具つきの袈裟をまとうが、無著の袈裟は、X字形に分岐する襞を交えた複雑な衣文を表し、環状のシンプルな吊り具をつけ、世親の袈裟はすっきりと、縦に流れる衣文を表し、雲頭形の派手な吊り具をつける。
 両手の構えは、共に左手を胸前で仰いで持物(世親分は亡失)を載せ、右手をこれに添える。一対の像としてのまとまりと対照が、様々な形で考慮されている。
 持物については近年、弥勒下生に際して、礼拝供養されると説かれる仏鉢(無著分、袋に包む)と仏舎利(世親分、宝珠または塔に入れる、亡失)を想定する説が提示された。
両像の教義的な性格についても、解明が進みつつある。
 造形的には、背中を丸めた上半身、肘を大きく左右に張って構えた両腕、そこから長く垂れた袖によって、大きな彫塑的空間が形作られ、胸前で持物を持つ両手によってその空間の中心が明示される。

 確固たる安定感とダイナミックな求心性を持つその立体構造は、奈良・円成寺大日如来像(1176)、以来の運慶独自のものである。耳の彫法にも、運慶作品に共通する特徴が指摘されている。
 本尊像の台座銘などから、実際の制作は、運慶の子である運賀(無著)運助(世親)が担当したと推測される。
 しかし、その作風は運慶自身のものと見て間違いない。北円堂の復興造像において、工房主宰者の運慶が強い指導力を発揮し、全体を統率していた事が、作品の造形を通してよく理解出来る。
 無著・世親像の面貌は、日本人の顔の外見的特徴を克明に表現し、その生き生きとした表情の中の崇高な精神が息づいている。迫真の写実表現に立脚して、高い精神性を現前させたその造形には、時代や地域を超えて見る人に共感を喚び起こす普遍性がある。鎌倉写実様式の到達点を示す傑作であり、日本の肖像彫刻を代表する名作である。
「興福寺国宝展」 東京芸術大学美術館 2004年 より

私 の 想 い

両手で胸に筒を持つ。右手を筒の横に添え、左手の平の上に筒を乗せている。眼は前方斜め右を見詰めている。静かなたたずまいで存在感を出す。

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