仏像名

 やくしにょらいざぞう

新薬師寺
制作年代

国宝
平安時代

薬師如来坐像

様 式

俗称又
は愛称

木造
素地

樹 種

像 高

191cm

製作者

安置場所

本堂

開扉期間

解 説

 一木彫成平安初期の代表作である。我々がこの仏の前に立つ時、言い知れぬ威圧と荘厳を感ずるであろう。その肩から胸に流れる線は肉感的感覚さえ覚えさせる程見事である。大きく見開いた切れ長の目、堂々たる体躯、将に密教精神の具現である。古来より眼病耳病の仏として霊験あらたかであり、遠近より祈願参詣参籠する諸人今に絶えないのも頷けよう。
「新薬師寺抄」より

男性的な堂々たる体躯を持ち、威厳に満ちた相貌と眼差しの鋭さを大きな一木彫で造り上げている。七仏薬師を表わした大光背や裳懸座が当初のもので有るのは貴重である。眼が特に大きいのは光明皇后が聖武天皇の眼病治癒を願った為と言われている。
 新薬師寺の本尊として、同寺本堂の円形土壇の中央に、安置してあるのが、この薬師如来像である。新薬師寺は、聖武天皇のご病気平癒の為、光明皇后により天平年間(729748)に創立された寺で、本尊は、七仏薬師像であったと伝えられている。
 ところが、のち宝亀十一年(780)、に同寺は、火災に見舞われ、諸堂の多くは、この際失われ、当初の本尊も、鳥有に帰したものと考えられる。その後延暦十二年(793)、頃に造立されたのが、今日の本尊薬師如来像であろうと一般に考えられている。
 像は、巨大な坐像であるにもかかわらず、膝まで、一木で刻出されている。唇に朱、眼に墨を塗っている他は、殆んど彩色はない。
 衣文にいまだ翻波式が現れていないのは、同寺が、天平彫刻の強い伝統を持つ奈良にあったが為であろう。像は、かなり完全に保存されており、光背も一部に補修はあるが、本尊と同時のもの、台座にも、部分的には古い箇所が残っている。
「日本の彫刻 上古〜鎌倉」 美術出版社 1966年より

 延暦十二年(793)、頃に制作された新薬師寺の本尊薬師如来像である。天平彫刻を見た目で直ちにこの薬師如来の像を見ると、その作風の著しい違いに驚くに違いない。その顔付きは、奇怪な強さを持ち、堂々たる体躯は、観者を圧倒する。
 これは当時の仏教界が新しいものを求めていたと同様、この頃には、天平彫刻を否定し、新しい作風のものが求められていた事を物語っていよう。
「日本の彫刻」 久野健編 吉川弘文館 1968年より

 新薬師寺の本尊、薬師如来坐像は大ぶりな目鼻立ち、とくに団栗まなこの大きな目が印象的だ。「聖武天皇が目を患った時、この像を造らせた」という伝承が古文献にあり、大きな目は昔から注目されていた。
 量感にあふれた堂々とした大像で、えり際の折り返しや薄い衣の質感など細部も洗練されている。天平盛期の伝統も受け継いだ天平末〜平安初期の傑作とされる。
 先週紹介した神護寺の薬師如来と同様、この本尊もカヤの一木造りだ。カヤは緻密で粘りがあり、彫りやすい。甘い香りがする。平安時代初期(8世紀末〜9世紀)の木彫像は、以前はヒノキが中心とされていたが、近年の調査で一木造りはカヤが中心とわかった。カヤの一木造りには「代用檀像」と呼ばれるタイプがあり、ここに個性的な仏像が多いこともわかってきた。
 檀像は香木の白檀を用いた最高級の仏像で、奈良時代に唐から伝わった。彩色もせず素木のままが原則で、胸飾りや天衣など肉身から遊離した装身具まで一材で細密に刻まれているのも特徴だ。白檀は南インドなど南方産の木材。中国ではとれないため、代用材としてヒノキ科の常緑樹を指す「栢木」(ハクボク)を使った像も檀像として認められた。日本では栢木をカヤと読みかえたため、カヤの代用檀像が盛行したとみる説が有力だ。
 新薬師寺本尊に照らすと、瞳の黒、唇の朱などの一部を除いて全身が素木のまま。ふくよかな顔面のつや、胸から腹部の分厚い量感に、緻密で重量感があるカヤの素木のもつ特徴が出ている。鋭く刻まれた衣文には、檀像同様の細密な彫法も示されている。
 檀像は1本の木から像全体を丸彫りする。この本尊も頭と体幹部を一材から彫り、体幹部からはみ出る手や脚の一部だけ、同じ原木からとった別材を木目をそろえて接合している。可能な限り檀像に倣おうとしている。この執着心が個性的な仏像を生んだのに違いない。この像や法華寺の十一面観音など代用檀像にはインド的雰囲気の傑作が多い。檀像本家インドへのあこがれもあったのだろう。
「探訪 古き仏たち」より 朝日新聞 2013.7.27

私 の 想 い

 夏の暑い陽差しの中から、本堂の冷やりする薄暗い堂内に入ると、そこは落着いた静けさが、漂っている別世界であった。仏像に感激して魅入る程に、堂内の静けさを増す様である。
 円形の土壇の中央前面に堂々と、座って居られるこの仏様に圧倒される。十二神将を後ろに従えて、威風堂々としたという表現以外にない。唇に力を入れて結び、拝む者の常日頃の惰性を戒める様な、表情をして居られる。
「言わずとも判ろう」
とお薬師さんは言っている。その表情で
「はい。これからは暴飲暴食、夜更かし、夜遊びを止めて、摂生に努め、健康で、健全な心身になった時に、また、お伺い致します」
と約束してしまった。
「うん。よし」
と答えて時に、また、その表情をされる。
  平成17年4月の「仏像観て歩き2」では、次のように記述している。
右手は脇を少し開けて肘を宙に浮かして、前に出し指先を外に開いて手の平を正面に向け施無畏印である。
 左手は脇を締めて肘を折り、太腿に手の甲を着けて薬壷を載せている。大きな眼で笑っている。六個の化仏を着けた火焔光背を背負っている。
 本堂の改修工事後初めての拝観であったが、以前よりも明るい所での拝観である。何がどうなって明るいのか判らないが、明るいのに驚く。

薬師如来坐像画像一覧その1
薬師如来坐像画像一覧その2
薬師如来坐像画像一覧その3
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薬師如来坐像画像一覧その5
薬師如来坐像
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