仏像名

ふりがな 11めんかんのんりゅうぞう

霊山寺
制作年代

重文
平安時代

十一面観音立像

様 式

俗称又は愛称

製作材質

木造
彩色

樹 種

榧材(カヤ)

像 高

82cm

製作者

安置場所

秘仏

開扉期間

毎年 10月23日から二週間開帳する。

解 説

 榧材による一木彫成の十一面観音像で、頂上仏、化仏および左手の前方へ突き出した部分(以上後補)を別材で矧ぎ付けるほかは、全身を一材から丸彫りしており、内刳りもない。
 口唇にはわずかに朱をさし、眼や髭などを墨描するほかは、全く彩色を施さない素地仕上げの手法は、檀像と呼ばれるもので、本来は白檀系の渡来の名木を用いて制作される。
 頭部を極端に大形化した形姿は、すこぶる異風がある。首をぐっと前方に突き出し、両足を揃えて正面立ちした姿も緊張した造形をみせており、また目鼻立ちの際立った面相は性格の強いもので、むしろ観音と思えぬほどに畏怖的でさえある。
 大きな頭部に対しては、圧し縮められたような胴体の比例、また不均合いに細い両腕の形など、互いにバランスをくずしたプロポーションが、本像の最も特色ある表現で、こうした部分的な誇張によって、像の印象を強調する表現手法は、平安前期の一木彫像には特徴的なやり方であるが、本像においてはそうした傾向が一層押し進められた感がある。
 また各部の彫法でも、面相部では深く強い彫りをみせる一方で、衣文線を抑揚の少ない浅い彫りにしているなど、ノミ使いを変えているのが注目されるが、これによって異相の面貌は、さらに強調されてくる。
 両肩にかかる垂髪の部分には、わずかに木屎漆を盛上げるなど、古風な技法も交えているが、両膝の衣文の彫法では、次第に概念化していく傾向がみえ、おそらく像の制作は九世紀も中葉以降になろう。
 きわめて異色の観音像ではあるが、婆羅門僧正茶毘の地と伝えられる霊山寺の古像としては、むしろふさわしい異国的な風貌でもある。
「古寺巡礼 奈良 霊山寺」田辺聖子、東山円教 淡交社より

 頭上面の一つ一つが大きい上、化仏(後補)を含めた頭部も短い体部に比べて異常に大きく、像全体の約三分の一を占めており、独特の不思議な雰囲気がある。体型は子どものそれで、足も短いが、腕は更に極端に短くバランスを崩している。
 また、顎を前方に出し、肩を後方に引き、腹部を出す姿勢は通常は女性的な体型とされるが、表情は異国的で強く、男性的で厳しい。顎に力を入れて唇を引き締め、眼を細めて長く引き、小鼻を少し膨らませて吊り上げ、人中線を深く刻む表現は霊感的である。作者はこのような異様な姿を通じて、十一面観音の霊験力の強さを表現したのだろう。
 また、肩に掛かる髪や裙(くん)を留める石帯は細かく刻んでおり、この像が檀像を意識して造られたことが判る。しかし、ビャクダン像の代表作である奈良・法隆寺九面観音菩薩像などが、胸飾や瓔珞などをにぎやかに施すのとは対照的に、装飾を全く表現していない。
 平安時代初期の檀像系の一木彫の中には、この霊山寺像のほかにも、大阪・勝尾寺の薬師三尊像、京都・醍醐寺の聖観音菩薩像など、子どものような短躯でかつ強くて厳しい表情の像が見られるが、いずれも霊威力の強さを示す表現と見られる。
 カヤとみられる針葉樹の一木から彫出し、内刳りは施さない。現在は本体と台座は別になるが、当初は足底と台座蓮肉とは共木で、後世に切り離されたと考えられる。頭部の仏面と菩薩面六面、化仏立像、右手の第一指から四指まで、左の肘から先は後補である。
「仏像 一木にこめられた祈り」展 東京国立博物館 2006年より

私 の 想 い

 82cmの像に向源寺の十一面観音の頭部が付けられたような感じがするほどに、大きな頭部である。
 大きく胸を出してひび割れた筋が痛々しい。所々に観えるノミの痕が製作者の息遣いを感じる。
 笑って居る様でもあり、泣いて居る様でもある。足下などの雰囲気は、大安寺や唐招提寺の像に似ている。
 平成18年10月に「仏像 一木にこめられた祈り」展として、東京国立博物館で開催され拝観した時には、次のように書いている。
 お顔の大きさの割りには、体の部分が小さく造ってある。首をすくめて前に出し、ひょうきんな格好をした十一面観音像である。
「霊山寺に行って以来の再会ですね。相変わらず、ハーモニカのおじさんは来て演奏聴かせてくれていますか。」
と、聞きたくなる。
 三段の蓮弁の台座に立つ。頭上の面は、三段に出来ていて、
  一段目は、7面の菩薩面と一体の阿弥陀立像
  二段目は、2面の菩薩面
  三段目の頭頂は、1面の如来面である。
 両手首から垂れ下がっていたであろう天衣は、欠けて今はない。足元まで翻って垂れていたに違いない。

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