仏像名

ふりがな　ぜんじゅざぞう

興福寺
制作年代

国宝
鎌倉時代

善珠坐像

様　式

文治五年(1189)

俗称又は愛称

製作材質

木造、玉眼
彩色

樹　種

ヒノキ

像　高

８３ｃｍ

製作者

康慶作

安置場所

南円堂

開扉期間

解　説

　南円堂創建当初に安置されていた像を、康慶一門が再興したものである。像名の僧侶は玄�ﾑを除いて南円堂発願の藤原冬嗣(775〜826)、にゆかりのある僧侶である。
　しかし、今日の寺伝による像名には後世の混乱があり、当初の像名については、室町時代の興福寺本法相曼荼羅の名称に従う説が有力である。
　本展出品の三躯は、伝善珠（善珠）が足を組む趺座で、当初は数珠を持っていたと見られ、伝玄�ﾑ（玄賓か）が両手を組んで膝を揃えて正座のような姿勢をとり、伝行賀（信叡か）は左手で柄香炉を執り片足を立て膝にする姿勢で、祖師像としては異例の形を示す。
　この内、伝玄�ﾑと伝行賀の姿勢については、両膝を地に着けて跪く「長跪」(ちょうき)と、片膝を立てて跪く「互跪」（ごき）という供養の際の二種の座法を表わしたものである事が、近年の研究で指摘されている。
「弘仁記」には、「供養僧形」と「善珠僧正」「玄賓禅師」とあるので、当初の南円堂には、長跪像二躯と互跪像二躯の柄香炉を執る供養僧形像があり、これに趺坐像の祖師像二躯を合せた六躯がそれぞれ老若で対になっていたと見られる（尚当初像では伝玄�ﾑ像は趺坐の姿勢を執っていたと考えられる）。これらが後世に六祖像として一纏めにされたようである。
  再興された現在の法相六祖坐像は、流麗な衣文処理の一方で、肉身の立体表現の不自由さが以前から指摘されているが、これは、当初像の姿勢に倣ったものの、長跪や互跪の坐法の意義が十分に認識されないまま、絵像などを元に造立されたため、姿勢や人体表現が曖昧になったという事が一因として考えられる。
　とはいえ、玉眼の採用による個性的で生々しい顔貌や、当初像にはない横被（おうひ）を着ける新しい着衣形式の導入は、康慶の創意と思われ、歴史上実在した僧侶の姿が、見事なまでに迫真的に表現されている。
　古代彫刻の復興と、リアリズム指向という鎌倉復興期の造形理念が結実した彫像と言えよう。
「興福寺国宝展」　東京芸術大学美術館　２００４年　より

私 の 想 い

　右手は座禅を組んだ足の前を指差し、何かを説明している。香炉に入れた火種の説明かそれとも、香炉の火を消さない方法を説明しているのか。
　難しそうな顔である。青年僧らしく、一途なところが好い。好青年である。さぞかし持て、持てだろう。
「うらやましい」
と、いうと。
「あなたはいつも、そんなことしか考えていない。もっと別な事があるでしょう」
と、言われて、二の句がない。