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興正菩薩の発願によって、建長元年(1249)に、京都嵯峨清凉寺の三国伝来の釈迦如来像を、仏師法橋善慶等十一人が模刻した霊像である。
この時代に盛行した、所謂清凉寺式釈迦如来立像で、なかでも代表的な名品である。
「西大寺由緒」より
平安時代永延元年(987)、に奝然（ちょうねん）が中国から、もたらした清凉寺本尊釈迦像は、早くから三国伝来の瑞像として尊崇を集めたが、鎌倉時代に入ると、西大寺叡尊を中心とする律宗関係で特に注目され、盛んにその模刻が行なわれた。
本尊は建長四年(1252)、叡尊により造立されたもの。彩色を加えず、衣文線に沿って金線をおき、衣には大形の花丸文をおいている。原像の異国的風趣は失われて、写実的な鎌倉期の特色が表われている。
「仏像ガイド」 美術出版社 １９６８年より
寛和二年(986)、に奝然（ちょうねん）によって、中国から請来された清凉寺の釈迦如来像は、三国伝来の霊像として信仰を集め、鎌倉時代にその模刻が流行した。
特に律宗復興の叡尊によって、それが唱導されたが、この像もその叡尊による造立である。
台座の銘記によれば、建長元年(1249)、大仏師善慶が増金、観慶その他の仏師と共に造ったもので、その三月十五日から四月三日までの十八日間に、清凉寺において模刻、開眼の後、その五日に西大寺に迎え、十五日から九日間で切金をおき、五月四日に四王堂に安置したという、詳しい造像経過も記されている。
また、像内には水晶五輪塔、経巻、願文、結縁交名記など多数が納入され、叡尊の主だった弟子を中心に、厖大な数の僧侶がこれに結縁している事が知られる。
なお仏師善慶は、善円の後継者とおもわれる。寄木造。
「運慶と鎌倉彫刻」 小学館 １９７３年より
西大寺の本尊として本堂に安置される釈迦如来像で、鎌倉時代に寺を再興した叡尊が自らの意向で造像を希望した由緒深い像である。叡尊の宗教的目標の一つはインドの釈迦時代の仏教の原点に戻って戒律を再興し、多くの人々に戒を授け、その仏縁によって衆生救済をはかることにあったが、釈迦如来像は叡尊の理念を象徴するに、最もふさわしい尊像であった。
「増一阿含経」巻二十八によると、インド・コーシャンピ国の優填王は、釈迦が生母のところに赴いて、国を留守にしている間、釈迦に対面出来ないことを悲しみ病に伏すが、それを知った群臣らは、国王のために栴檀で釈迦像を造ったところ、国王の病気は回復したとされ、この像こそインドにおける仏像の始まりであらと説いている。
その後、由緒正しいこの像は模刻されて中国にもたらされ、七世紀頃になると更にその模像が中国各地に造られるようになったことが記録にみえる。現在、京都・嵯峨の清凉寺に伝わる釈迦如来像は、平安時代に中国に渡った日本の僧奝然（ちょうねん）が、優填王ゆかりの模像を、九八五年に彼の地の仏工に製作を依頼したもので、帰国の折に日本に請来した。
像は清凉寺に納められ、それ以来、インド、中国、日本の三国に伝来した釈迦瑞像として強い信仰を集めていた。釈迦を尊崇する叡尊は、清凉寺像の模像の製作を早くから希望していたが、師の意を受けた弟子の賢任が施主十人、結縁者百八十六人と相談して宝治二年(1248)八月八日に造像を発願した。
この釈迦像の造像の経過については、叡尊著「感身学正記」や、像の台座に記された墨書銘、像内納入の文書などからよく知ることが出来る。それによると、建長元年(1249)三月十三日に、西大寺から僧衆十六人、大仏師善慶を中心とする仏師九人、番匠二人が清凉寺に派遣され、翌三月十四日から二十日まで清凉寺にて釈迦像を供養した。
この間、梵網戒が講じられ、二百七十五人に菩薩戒が授けられたほか、仏師、番匠らは模像の製作に先立って持斎して身を清めている。造像の中心となった大仏師善慶は叡尊の信仰に帰依した弟子であったと考えられ、その持斎は二十三日間に及んである。
模像の製作は建長元年三月十五日から清凉寺で、釈迦像を前にして行われ、四月三日に完成して四月五日には西大寺に移されている。その後、四月十五日から九日間で像に切金が施され、五月四日に舎利、経文、結縁交名などが像内に納められ、五月七日に開眼供養された。
像は頭髪を縄状に表わし、施無畏印・与願印を結び、衲衣を通肩に着け、体の衣文を水波状、両脚部はＹ字状に意匠化した表現となっている。これらの形式は清凉寺像を踏襲したものだが、表情は清凉寺像の厳粛さから柔和なものに変化し、衣文線も清凉寺像のねばりある克明さが消えて美しく整えられた形式美が追及され、全体に穏やかな表現となるなど、善慶の趣向が強く反映されている。
「特別展 大和古寺の仏たち」 １９９３年 東京国立博物館より
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