仏像名

11めんかんのんりゅうぞう

室生寺
制作年代

国宝
平安時代

十一面観音立像

様 式

俗称又
は愛称

製作材質

木造
彩色

樹 種

像 高

195cm

製作者

安置場所

金堂

開扉期間

解 説

室生寺の十一面観音に久し振りでお目にかかったのは昭和四十五年の十一月の末である。金堂の内部にはいると、内陣には、右から地蔵、薬師、本尊(釈迦如来)、文殊、十一面観音といった順序で五体の仏像が一列に並び、その前に十二神将が、これも一列に配されている。一番左の十一面観音像の前に立った時、なるほど美しい観音さまだと思った。
 十仏面を配し、花飾りまでつけた豪華な冠がぴたりと頭部を包んでいる。冠の金箔はすっかり剥げ落ちているが、それでもまだところどころに妖しいひかりを放っている。
 この豪華な冠を頭部に落着かせるものは、当然のことだが、よほど豊かな顔と体躯でなければならぬ。顔も体躯も頗る肉感的で、肩など頑丈すぎるくらいである。顔は豊かで、静かで、唇には紅が指されている。
 体躯は胡粉地に淡紅の彩色があり、胸部は胸飾り、瓔珞で飾られ腕には腕輪がはめられている。天衣を纏い、威儀を正して立ったこの貞観の観音さまは、まさに古代の美しいおじゃれな女王である。
「十一面観音」 著者 井上 靖 1993年より

 室生寺金堂の須弥壇に向って、左端に安置されている十一面観音像。伏し気味の細い目、丸くふっくらとした頬、やや突出した小さめの唇など、豊頬の女性を思わせる特色ある顔立ちを示し、現存する数ある十一面観音像の中でも、とりわけ、親しみ深い像の一つである。
 十一面観音は変化観音と呼ばれる、いろいろな形をした観音の中では最も早く成立し、その超人的な姿はあらゆる方向に顔を向けて、人々を救済する観音の力を象徴している。
 本像の頭上には、髻の上に如来の頭部(仏面)を一面、冠帯上の頭髪部の正面に穏やかな表情をした菩薩面、その左側に怒りの表情を示す瞋怒面、右側に口端から牙を出す狗牙上出面を各面三面ずつ、更に同背面中央に大笑いの表情をした大笑面を一面の計十一面を配しているが、これは一般の十一面観音像に通有の形である。
 2m近い大きな像であるが、頭体を通して榧の一材から彫出され、背面から内刳りを施している。体躯には張りと奥行があり、堂々とした量感が示されるが、誇張的なものではなく、頭部がやや小振りに表わされているものの、頭体のバランスはよく整っている。
 衣文と衣文の間に一条の稜線を表わすいわゆる翻波式衣文が随所に見られ、その彫り口も鋭いが、衣文は流麗な平行線を基調として線条的に整えられているため、像に端正な気品を添えている。
 頭飾り、胸飾りや瓔珞は銅板を切り透かして文様を打ち出しており、当初の製作と考えられるが、その造り方は、観心寺の如意輪観音像、法華寺の十一面観音像、仁和寺の阿弥陀三尊像など九世紀の像に、しばしば見られる銅製の装身具と共通するものといえる。
 本像は総じて、体躯の量感と鋭い刀法を示す平安時代初期一木彫の特色が整理され、更に洗練された趣があり、その製作時期は九世紀末ないし、十世紀はじめに置くのが妥当と思われる。
 なお、現在ある光背は後世補われたものであり、像の表面に残る漆箔や彩色もその大半が後世の補彩である。
「特別展 大和古寺の仏たち」 1993年 東京国立博物館より

 内陣の左端に安置されたこの像は、彩色も良く残る華やかな観音像として著名である。肉付きのよい豊満な顔立ちと、天衣や条帛の襞を平行線で刻むなど、全体に装飾的な傾向が強く、女性的な優しさが漂っている。
 作風や彫法はやや異なるものの、本尊とそれほど違わない時期の作で、その脇侍だったという伝承もうなずける。
「女人高野 室生寺」2005年より

私 の 想 い

 金堂に並ぶ仏様の中で、向かって一番左側に立っておられる。右手は極自然に肘を伸ばし、下に降ろし指の変化もさせずに手の平を正面に向けている。
 左手は肘を直角に曲げて、前に出し水瓶を持つ。親指と中指の輪で、水瓶の注ぎ口を持ち、人差し指、薬指、小指は真直ぐに伸ばす。
 幡広の天衣が、膝と太腿に二重に垂れ下がる。左手から下がる天衣は体から離れて幅広になって流れ落ちる。
 頬の福与かなお顔の十一面観音様である。台風で五重塔が大木により、両断された写真を見ましたが、この復興事業にも率先して東京に来られて、基金の収集にも活躍された。
 その展覧会でも、お会いしました。平成十六年の五月にも、平成十七年の四月にもお会いしました。いつ観ても、美人は美人である。これが結論である。井上靖さんのおっしゃる通りである。
 平成22年11月に遷都1300年「仏像観て歩き」として訪問した時には、次のように書いている。
 今回の訪問で五重塔復興の寄付をされた方の写真を撮りました。また、復興事業の一環として、この十一面観音さまを始め、多くの仏像が東京まで遣って来ておりました。その先頭になってこの十一面観音様が来ていました。まさにドラクロワの「自由の女神」の活躍ぶりと私には思えました。そんなことも過去にはありましたが、今は又、元に戻り平穏な日々を送られておりました。

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