仏像名

 こんごうりきし(あぎょう)

興福寺
制作年代

国宝
鎌倉時代

金剛力士(阿形)

様 式

俗称又
は愛称

製作材質

木造、玉眼
彩色

樹 種

像 高

154cm

製作者

安置場所

国宝館

開扉期間

解 説

この二力士像については、「興福寺濫觴記」の西金堂の条に、建久年間(11901198)、春日大仏師定慶の作で、正応元年(1288)、十月に両像とも、修理が加えられたと記されている。
 また、その吽形像の胎内及び足枘には修理の際の墨書銘があり、この記事と符号するところから、濫觴記の記事の正しさが立証されており、この像が、建久年間に定慶の作であることが、一般に信じられている。
 定慶は、一説に運慶の次男康運が後に改名した人とも云われるが、むしろ運慶の弟子とする説が有力である。
 両像ともかなり良く彩色をとどめ、肉身は赤、顔は阿形が赤で、吽形が白く塗られている。裾には、共に群青、緑青、朱で、唐草文が描かれている。吽形像が、右手を失い、阿形像が、左足先と指の一部を失っている他は完全である。
「日本の彫刻 上古~鎌倉」 美術出版社 1966年より

 金剛力士とは仏を守護する執金剛神の別称で、金剛力士と呼称される場合は阿形と吽形で寺門の左右に配される例が多く、二躯一対なので仁王とも呼ばれる。
 この半裸・等身大で一対の金剛力士立像は、鎌倉復興期の西金堂本尊丈六釈迦如来像を守護するべく、その左右前方に配置されていた。
 口を開けて力を発散する阿形は、左手は臂を肩上背後へ引いて手の平を外に向けて拳を握り、右手は臂を捻りながら下へと、伸ばして手の平を外に向けて開き、人体としてはいささか無理なこの動きが、彫刻という造形作品に緊張感を与えている。
 両手の激しい動きから生じる動勢が、胸から腰、脚から裳裾にまで伝わり、剥き出す様な玉眼と、骨格、筋肉、血管などの写実的にして劇的な表現と相まって、気迫に満ちた忿怒相の表現となった。
 口を閉じて力を内に蓄積する吽形は、臂を外側に曲げて拳を握る左手と、臂を肩下背後に引いて曲げる右手の動きで、大きく息を吸込んだ人体の肩と胸の様相が見事に表現されている。
 阿形は息を吐き出す腹筋を、吽形は息を溜め込む肋骨から首筋を強調し、二躯一対で忿怒の呼吸の二相を表出した、我が国の仁王像表現の頂点ともいえる作品である。
「興福寺国宝展」 東京芸術大学美術館 2004年より

 金剛力士(仁王)としては小柄だが、怒りの顔や力感あふれる姿は拝観者の目を奪う。興福寺国宝館の木造金剛力士阿形立像は、大胆かつ精細に彫られた鎌倉前期のど迫力憤怒像である。
 国宝館の壇上では国宝の天灯鬼・龍灯鬼立像(鎌倉時代)を挟んで両側に立つ。向かって右に口を開いた阿形、左に吽形。ありがたいことに間近で拝観できる。筋肉がうねる胸や腹、腕や足、縦に隆起した額、逆立つ眉と眼光鋭い玉眼の瞳、阿と吽の口の形も威嚇力満点だ。 筋肉質の男性を細かく観察して彫ったようなリアルさだ。「技巧に過ぎる」という見方もあるが、迫真性にこだわる力士像としては秀逸な造りといえる。像が小さいのは、堂内に安置された壇上の像だったからであろう。
 この仁王像は、平重衡による1180年の治承兵火で伽藍ごと焼けた後の復興像らしい。吽形の足枘に残る1288年の墨書などによると、再興された西金堂に安置してあった。西金堂はその後も焼け、最後は1717年の寺内大火で焼失。仁王像救出されたものの、戻るべきお堂はついに再興されなかった。
 像が作られた年代の確定は難しい。だが、写実的な作風や西金堂の再建時期から推測して、鎌倉時代の興福寺復興の早い頃の作のようだ。運慶ら慶派仏師が活躍していた時代の象徴的な仁王像である。
 制作した仏師もはっきりしない。近世の史料には建久年間(12世紀末)に春日大仏師定慶(慶派)が造ったとあるが、定慶作の維摩居士像(国宝、興福寺)などと比較した肯定・否定両論がある。天平の創建時の西金堂仁王像を再現したとの見方もある。
 現状の像には少し欠損がある。阿形の右小指や右足先、吽形の右手首などだ。両像とも頭頂に髻の痕跡もあるという。完全でないのが少々残念に思われる。
 だが、素手で外敵に立ち向かう動作や怒りの表情、風をはらむ裳などの力強さは抜群だ。小ぶりの等身像だが、私的には、巨大な東大寺南大門とともに仁王像番付の筆頭に推したい。
「探訪 古き仏たち」より 朝日新聞 2013.8.10

私 の 想 い

 右手は肘を伸ばして、腕を内側に捻って掌を開いて、外に排除する仕草を見せる。二の腕の力瘤が浮き出る。
 左手は握り拳を右耳の脇に置き、肘を肩よりも高く引き上げて、殴る姿勢を見せる。左足を突張って右足を横に伸ばす。風で衣の裾が左になびく。左足の足先を欠く。
 スキンヘッドの頭にも力がこもる。眉を三角に吊り上げて、大きく口を開けて、威嚇する。上から下を見下ろすように睨む。

金剛力士(阿形)立像画像一覧その1
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金剛力士(阿形)立像
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