仏像名

ふりがな やくしにょらいざぞう

興福寺
制作年代

    重文
平安時代

薬師如来坐像

様 式

長和二年(1013)

俗称又は愛称

製作材質

木造
漆箔

樹 種

像 高

107cm

製作者

安置場所

国宝館

開扉期間

解 説

定朝が造った平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像に先立つ事四十年、長和二年(1013)、頃に制作された興福寺の薬師如来の像である。この像では、十世紀彫刻に比べ、一層洗練の度を加え、当時の貴族好みの優雅な顔付きになっている。
 しかし造法は、まだ一木彫であるが、胎内の一部を刳り貫き、内部に蓮台を置き、経巻を納めている点なども、鳳凰堂像と共通している。学者によっては、この造を定朝の父、康尚作と推定する者もある。
「日本の彫刻」 久野健編 吉川弘文館 1968年より

 この像の左の手の上には薬壺がないが、胎内に納めてあった二巻の「薬師経」によって薬師如来と判り、経の奥書に長和二年(1013)、に造られたことが記されている。桜材、一木造りで、膝前は別木、背刳りがある。裳にゆるい翻波式の衣文がある。
 定朝の阿弥陀如来の作られる四十年前の作であるが、像全体にやや定朝仏に近い感じが現れている。頭の植付け螺髪もひどく落ち、全身の漆箔も剥げてくすんでいるが、端正な造りで、当時一流の仏師の作と思われる。
「仏像ガイド」 美術出版社 1968年より

 本像の発願者である沙門輔静は、十世紀末から十一世紀前半にかけて活躍した法相宗の僧で、薬師寺権別当、西大寺別当、薬師寺別当を歴任している。本像が造られたと考えられる長和二年は、輔静が西大寺別当を辞した長和元年と薬師寺別当に任命される、長和三年の間に時期に当たる。
 また、大江親通(?1151)の「七大寺日記」や「七大寺巡礼私記」によると、薬師寺にあった東院八角堂は、輔静が建立した堂であり、堂内に安置されていた丈六釈迦像は輔静が定朝に大安寺の釈迦像を模して造らせたという。
 輔静は藤原道長の法成寺金堂の供養会に、名を列ねていることからすれば、法成寺の造像で活躍した定朝と輔静が、近い関係にあったことは十分考えられる。
 また大安寺の釈迦は天智天皇によって造立された像であり、「七大寺巡礼私記」には、当時奈良で最も優れた仏像であると評価している。こうした記録から、輔静は奈良にあった優れた古像に対する興味を持ち、その模像製作を当代一流の仏師定朝に依頼できる環境にあった事が知られる。
 本像は体躯に量感があり、衣文を翻波式に表わすなど、一木造りの構造も含めて、前代の古様な要素を多分に残すが、頭体のバランスが整い、衣文の彫りも浅く整えられ、誇張の少ない穏やかな表現が指向されている。
 寺伝のように定朝作と云えないまでも、かなりの腕を持った仏師によって造立された事は確かであろう。
 その頃京都の造仏界は、康尚から定朝への世代交代期に当たり、穏やかさを基調とする仏像が造られ、やがて定朝様式が確立されて行くが、奈良の地でも本像の作家のような優れた仏師たちによって、彫刻の和様化が徐々に推し進められて行ったと考えられる。
「特別展 大和古寺の仏たち」 1993年 東京国立博物館より

 薬師如来は東方浄瑠璃光世界の国王で、私達の心と身の病気を治して下さる。像は体のバランスもよく、目鼻立ちも明快で、肉身も強く引き締まる。
 結跏趺坐し衲衣を着け、左手は膝上に置き、甲を右足裏に接して五指を軽く曲げ、右手は曲げ掌を前にして立て、五指を軽く曲げる。
 頭体部を通して芯持ちの一木の桜材から彫り出し、両肩外側にのみ別材をつける。像内には竹製経筒に、「色紙薬師経」と「薬師経」が納められていた。
「法相宗大本山 興福寺」より

私 の 想 い

 右手は脇を少し開いて肘を折り、手首を返して掌を開いて、正面に向ける。手の平は自然な感じで開いていて、指先が伸び切ってはいない。
 左手は脇をしっかり締めて、肘を脇腹に着けて前に出し、手の甲を吉祥座に組んだ右足の裏に置く。幾分中指と薬指が曲がって立つ。頭の羅髪が欠落して痛々しいが、顔は青年僧である。

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